「若手研究者と考える場面緘黙研究の現在とこれから」

日本場面緘黙研究会の総会にあわせて、若手研究者の考えを聞くシンポジウムが開催された。その様子をご紹介。

日時: 2021年10月3日
場所: オンライン開催

  • 企画者
    高木潤野 (長野大学社会福祉学部)
  • 司会者
    加藤哲文 (上越教育大学臨床・健康教育学系/日本場面緘黙研究会副会長)
  • 話題提供者
    田中佑里恵 (名古屋大学教育学部)
    藤間友里亜 (筑波大学大学院人間総合科学研究群)
    山中智央 (鳥取大学大学院医学系研究科)
  • 指定討論者
    園山繁樹 (島根県立大学人間文化学部/日本場面緘黙研究会会長)

企画趣旨

このシンポジウムの企画は、若手研究者が話題提供を担当し、場面緘黙研究の現在と今後について考えを深める機会として実施された。場面緘黙に対する関心は以前に比べ高まりつつあるものの、場面緘黙の専門家は未だ不足しており、十分な支援が受けられないケースが現在も多い。場面緘黙の研究及び臨床の今後を担う若手が多く登場し、活躍していくことが切望される。日本場面緘黙研究会は、場面緘黙の専門家を増加させることを急務と考えている。本企画では、3名の若手研究者が登壇し、現在取り組んでいる研究の概要や関心、場面緘黙研究における今後の課題について話した。

話題提供

場面緘黙研究を行うことの課題と対処・展望 ――若手の課題と場面緘黙界隈全体の展望に着目して―― (田中)

場面緘黙研究における課題と対処・展望をテーマとし、個人要因と環境要因の両側面について述べた。個人要因について、場面緘黙に興味を持ち、研究・支援をしたいと志す者は場面緘黙経験者が多いことから、場面緘黙と関連する特性が研究・支援活動に影響する点を課題として挙げた。環境要因について、場面緘黙研究者が少ないため場面緘黙研究を実施しやすい大学院などの研究室を見つけるのが困難な点、研究対象者の募集先が限られていて対象者を集めにくい点などを課題として挙げた。これらの課題解決を目指すため、研究者間の協力体制の構築が重要であるとまとめた。

場面緘黙研究における対象者の選定方法 (藤間)

これまでの研究や現在進めている研究を実施する中で感じた課題として、場面緘黙研究の対象者の選定方法に焦点を絞って話題提供を行った。対象者の選定方法には、複数の心理テストなどのアセスメント方法を組み合わせて専門家が総合的に判断する方法、単一の質問紙や面接を実施する方法があるが、それぞれに研究方法として問題が存在すると考えられる。多くの人が実施しやすく、妥当性の高い対象者選定方法の確立が今後の課題である。一方で、厳密な選定による等質な場面緘黙集団を研究対象とするのではなく、様々に異なる個々人をそれぞれに記述する研究も方向性の一つとして提案した。

場面緘黙者支援のためのアセスメント方法と家族支援 (山中)

場面緘黙児・者本人に関する研究が増加している一方で、場面緘黙児・者の家族に関する研究が増えていない現状を踏まえ、場面緘黙児の保護者の悩みに着目した。保護者の悩みは、子どもの障害者手帳の取得や学級の選択など多岐に渡る。そして、保護者の悩みの背景に、場面緘黙児の知能指数や適応能力などのアセスメントの困難があり、場面緘黙のアセスメント方法の確立が求められる。また、子どもが場面緘黙以外の障害の併存や不登校・不登園を示す場合、保護者の悩みは深くなり、抱え込みやすい。一人で悩みを抱え続けることを防ぐ仕組みづくりが必要であると主張した。

指定討論

指定討論では、それぞれの話題提供者に対する質問とコメントが行われた後に、全体に対するコメントとして、次の指摘があった。場面緘黙の研究課題は未だ多く残されている。場面緘黙を研究テーマとする若手研究者の登場は喜ばしいことであり、精力的に研究し、研究成果の共有のため、論文による発信を期待する。また、日本場面緘黙研究会の展望として、研究大会開催や機関誌発行が重要である。